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J-BREATH 連載講座

講師:木田 厚瑞先生 

 呼吸ケアクリニック東京 臨床呼吸器疾患研究所 医療法人至心医療会 理事長


J-BREATH第73号 2014年8月号掲載

第10回 COPDの薬の決め方

 
 COPDは薬だけで簡単に良くなる病気ではありません。治療は、薬に加えて完全禁煙、適切な運動と栄養、急に症状が悪化する増悪の予防がすべて行われなければなりません。また大切なことはCOPDという病気の全体を患者さんが自分で理解できる範囲で正しく知っていただくことです。COPDが安定して心配なく、快適に暮らせるためにはCOPDと一緒に合併している病気(併存症と呼ばれています)の治療が大切です。COPDは全身の病気。これを忘れないでいただきたいと思います。これらのことはこれまでにお話しした通りです。
 

薬はなぜ必要か

 
 よく患者さんから、「薬は一生、続けなければなりませんか」、と質問を受けます。これは「そうです」という場合と「いやそうではありません」という場合に分かれます。
 「COPDです、ではこの薬で治しましょう」というような答えは間違いです。COPDは慢性の病気であり、慢性の病気の治療では、治す=完治、という考え方は正しくありません。悪化しないよう、また快適に暮らせるように治療していくのです。いまでは高血圧と診断された患者さんが、いつまでこの薬を飲むのですか、と訊ねる人はなくなりました。昔は、血圧は受診したときにしか計る機会がなく、特に症状もない高血圧の人にずっと治療しなければならないのですよ、と教えこむのが大変でした。同じことがCOPDでも言えます。
 息苦しさなどの症状が全くなければ薬は不要です。症状はないが肺機能の低下がかなり強い人では、本来、感ずるはずの息切れを感じない人の可能性があります。息切れは主観的な感覚ですからしばしばこのようなことはあります。薬を使い始めたところ、体がこんなに軽くなるとは知らなかった、と感謝されることがあります。
 「増悪」を1年以内に起こしたことのある人では次の増悪を予防するために薬を使っていた方が良いでしょう。
 

気管支拡張薬

 
 COPDの治療薬の中で大切なものが気管支拡張薬と分類されている薬です。COPDの肺で見られる太い気管支や細い気管支は、タバコ煙などで広い範囲で傷害を受けています。あるところの気管支はむくみ、あるところは表面の細胞がはがれている、あるところは壊れて細い気管支そのものが無くなってしまっている、このようなところが一つの肺の中で混じり合っています。もちろん、肺の全ての気管支や細い気管支が壊れてしまっているわけではなく正常な部分も残っているのが普通です。また中には少し壊れかけているところもあるかも知れません。
 気管支拡張薬は、狭くなった気管支、細い気管支を広げる作用があります。最近では薬の種類が多くなりました。また2種の薬が一緒になったものも数種類出ており治療薬の効果は格段に上がりましたが使い方が複雑です。明らかな処方の間違いのまま数ヵ月間、治療を受けている患者さんを数人、診たことがあります。多種の薬がある理由は作用する場所が薬によって異なるからです。また半日や丸1日効く長く作用するもの、数時間しか効かないもの、夜のセキを止めるもの、昼間の息切れをよくしてくれるもの、患者さんが苦しいという事情に合わせて薬を処方するのですが、そのためには患者さんの症状が治療する医師に完全に伝わっていなければなりません。
 

気管支拡張薬を使う理由

 
 気管支拡張薬がなぜ必要か、国際的な治療方針を決めている、GOLD(ゴールド)の2015年版では次のような目的を指摘しています。
 症状をやわらげる。
 必要なときだけ、つまり苦しくなったときだけ使うか、あるいは朝、夕というふうに規則正しく使うか。このように使うことで急に苦しくなることを防いだり、あるいはいまの苦しさを和らげる。
 気管支拡張薬は以下のように分類されている。β2刺激薬、抗コリン薬、テオフィリン薬。これらを1種類だけ使うか、あるいは組み合わせて使うか。
 どの薬をどのように使うかは患者さんごとに症状がどのようなものであるかで決まる。薬には副作用が避けられないことが多いのでこれを考慮しながら使う。
 β2刺激薬、抗コリン薬はそれぞれ、2~4時間くらいの短時間か、半日あるいは丸1日の長時間にわたって効くものがある。前者は短時間作用型、後者は長時間作用型と呼ばれ、短時間作用型β2刺激薬、短時間作用型抗コリン薬、長時間作用型β2刺激薬、長時間作用型抗コリン薬に分ける。
 長時間作用型は短時間作用型よりも息切れなどの症状を良くする効果が大きい。
 長時間作用型は短時間作用型よりも急に悪くなるような状態を避け、入院が必要な状態をなくする効果が大きい。
 1種類の薬だけを使うよりも複数の薬を組み合わせることにより作用を強め、副作用を減らす効果がある。
 私は、これらと並行して考えなければならないのはこれ以上病気を悪化させないこと、つまり肺機能を低下させないために薬は大切であると考えています。これについては後で触れることにします。
 1種類だけの気管支拡張薬を使うよりも複数の薬を使う方がよいならば、最初から薬を組み合わせたものを作ってそれを使えばよい、ということで最近では組み合わせが多くなりました。薬の名前はパ、ピ、プ、ペ、ポやラ、リ、ル、レ、ロなど破裂音にちかいもの響きの良いものがよく売れるというジンクスがあるためよく似た名前の薬の組み合わせが多くなり、私たちの悩みのタネでもあります。
 

薬の略語を知ろう

 
 先にお話しした日本COPD対策推進会議(日本医師会、日本呼吸器学会、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会、結核予防会)では呼吸器の病気を専門としない医師に分かりやすく知ってもらうためにCOPDの治療のエッセンスを作成しました。2011年に最初に作成、2014年にこの間に進歩した内容を入れた改訂版を作成しました。私は両方の版を最終的にまとめるワーキング・グループのリーダーを務めましたので専門としない医師にいかに分かってもらうか、誤解のないように伝えたいと考え、薬を最初から略語で呼ぶことを提案し、現在、わが国では略語で呼ぶことが一般的になってきました。私はこの略語を患者さん方にも使っていただきたいと考えています。双方が簡単な略語で理解しあえば、説明は格段に楽になります。表1はその略語を示しています。サバ、サマ、ラバ、ラマ、アイ・シー・エス、という呼び名に慣れていただくと薬の説明が楽になります。
 

 

わが国で使われている薬

 
 現在、COPDの治療で使われる薬は表2のように分けられています。略語とそれぞれに区分されている薬を分かって下さい。あなたが使っている薬がどの組み合わせになっているかを正確に知りましょう。
 

 

気管支拡張薬を選ぶ順序

 
 気管支拡張薬には、サバ(SABA)、サマ(SAMA)、ラバ(LABA)、ラマ(LAMA)、テオフィリンがあります(表1、表2)。これらの薬は使い方に順序があります。坂道を上るときなど苦しいときだけサバあるいはサマを使います。サバの方が、副作用が少ないので私はサバを選びます。一日中、苦しさが続くときはラバ、あるいはラマを使います。どちらを選ぶかと言えばラバを選びます。息切れが強い場合にはラバとラマを併用します。通常は息切れが強くなるに従い段階的に強い薬に変更していきます。その方法は図1のような順序とします。日常の生活の中でときどき、息苦しさを感じて困るような場合にはサバを苦しいときに使うようにします。ただし苦しいときにサバを使いなさいと指示すると使い過ぎの人がときどきいます。それを避けるため朝、昼、夕など時間を決めておいてサバを使うように指示することもあります。サバをうまく使い、快適にする、私はこれこそ医者の匙加減だと思っています。
 

 

吸入ステロイドを使う理由

 
 ステロイドの吸入薬はアイ・シー・エスと呼ばれます。喘息の治療では必ず処方しなければならない薬の一つです。近年になって吸入ステロイド薬が息切れや、セキ、痰などの症状をやわらげること、肺機能を改善すること、急性の悪化(増悪)の機会を減らし、生活全般を快適なものに変える効果があることが判明しました。
 ところが大量に吸入ステロイド薬を使い過ぎると肺炎が起こりやすくなることが分かりました。肺結核がある人では悪化していく可能性があります。
 これまで吸入ステロイド薬を使い安定していた人が急に使うのを止めると、全てではありませんが中にはCOPDの増悪が起こりやすくなることがあり注意が必要です。最近ではアイ・シー・エスとラバの合剤が汎用されるようになっています。
 

吸入薬の副作用

 
 全ての薬には副作用がありえます。作用があれば副作用があるのはむしろ当然と言えるでしょう。ただ少しの副作用はあるが毎日の生活は格段に楽になってきた、これが許容範囲でしょう。副作用でかえって日常で困ったことが出てくるようならこれは薬を中止するか、別の薬に変更するかが必要です。ずっと使っている薬が3、4ヵ月後に副作用が出てくるようなことはしばしばみられます。長期間分の薬を1回に処方してもらうと何度も受診せず、便利ですが副作用に気がつかずそのまま使い続けるという危険があります。
 サバ、ラバの副作用は、不整脈が主なものです。動悸がして胸苦しいという患者さんが時々、います。ラマは、男性で前立腺肥大があると排尿困難となることがあります。また便秘がおこることもあります。女性でも時におしっこがでにくくなるような副作用がでることがあります。またラバと同じように不整脈が問題になることがあります。アイ・シー・エスで圧倒的に多いのが声枯れです。カラオケに行けなくなった、友人に電話したときに「声が変わったね」と言われることがあります。
 

習った通りに使う

 
 吸入薬に共通して必要な注意は、うがいを指示された通りきちんと行うことです。口の中に残った薬は、気管支を広げる効果がないどころか、吸収されて副作用の原因になることがあります。回数も指示された通り使いましょう。薬によってはゆっくり吸う、速く吸う、など吸い方で効果が異なることがあるので注意しましょう。
 薬の使い方で不明な点があれば必ず確認してください。特に調剤薬局で薬をもらう場合には、薬剤師が「服薬指導」を行い、服薬指導は指導料を支払うことになっていますので納得できるまで聞いておいて下さい。
 

マクロライド薬の効果

 
 マクロライドに分類される抗生物質の作用が最近、注目されています。わが国では以前から安定したCOPDで特に肺炎などを起こしていないときにマクロライド系の抗生物質が使われていました。最近、欧米から発表された研究でもマクロライド系の抗生物質の少量で長期の投与が増悪を予防する裏づけデータが発表されています。クラリスロマイシンと呼ばれるものがそれですが通常は1日1錠だけをずっと服用します。私は痰が多い人に処方するようにしています。
 

去痰薬は効くか

 
 痰が多い人には古くから去痰薬が使われています。セキと痰が多い人では気管支拡張薬をまず使うべきであり、去痰薬はセキ止め効果はありません。わが国で特に去痰薬が好まれていることは事実ですが、COPDに対する効果を検証したデータは多くありません。去痰薬の効果を客観的に判定する方法がないことも問題点です。私は通常、3、4週間、患者さんに服用してもらい、飲んだ方が、明らかに効果があると言われたときにだけ継続して投与することにしています。効果がはっきり分からない薬を漫然と処方するのは医療費の無駄使いにもなります。
 COPDに使われる薬は、これまでに挙げた気管支拡張薬、吸入ステロイド薬のほかマクロライド薬、去痰薬などがあります。薬は必要最小限の使用に抑え、しかも息切れができるだけ良くなるように工夫して処方します。
 

なぜ薬を使うか

 
 昔は、「肺気腫ですね、これは治す薬はありません、我慢して下さい」、と言われた時代がありました。この説明は明らかに間違っていますが、現在では、気管支拡張薬やアイ・シー・エスの吸入薬を使う理由は先に述べたように息切れを楽にするという目的が主ですが、その他に「増悪」を防ぐという大きな目的があります。増悪をくりかえすと次第に肺機能が低下していき、さらに息苦しさは強くなっていきます。増悪を起こさないのに肺機能がゆっくり低下していく場合があります。この場合には、現在のところ確実に低下を防ぐ薬はありません。
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 次号では「増悪」についてお話しします。