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J-BREATH 連載講座

講師:木田 厚瑞先生 

 呼吸ケアクリニック東京 臨床呼吸器疾患研究所 医療法人至心医療会 理事長


J-BREATH第83号 2016年4月号掲載

第15回 わが国で進歩した在宅酸素療法

 
 米国でペティ先生が始めた酸素療法は米国では「長期酸素療法」と呼ばれていることは前号でお話ししました。すでにわが国にも自宅に工場で使う大きなボンベをおいて酸素吸入を行う治療は行われていましたが、今日の「在宅酸素療法」の考え方を伝えてくれたのは間違いなくペティ先生です。その考え方は今では世界共通のものになってきました。「在宅酸素療法」は、原因になった呼吸器の病気は安定しているのに血液の酸素不足だけがずっと続いている慢性呼吸不全の治療には、今ではなくてはならない治療です。

ペティ先生は「長期酸素療法」と呼んだのに1985年、わが国でこの治療に健康保険が適用されることになったときに「在宅酸素療法」と呼ばれることになります。名称では「長期」が「在宅」に変わっただけですが考え方は大きく違います。
 90年代に入り酸素療法が広がっていくにつれ、正しく使われているだろうか、という不安が欧米の研究者たちの間でも起こってきました。ペティ先生は、酸素療法に関わっている世界の医師たちに呼びかけ、共通の問題点を議論しあおうと提案しました。ペティ先生が中心となり国際酸素クラブ(インターナショナル・オキシジェン・クラブ)という酸素療法に興味を持つ医師たちの集会が行われることになりました。1年に1回、米国胸部学会が開催されている期間中に、朝早く朝食を一緒に摂りながら話し合いを進めるという会でした。ペティ先生からの呼びかけで日本からは私が出席していました。さまざまな問題が出されました。驚いたのはオランダの医師が話してくれた話で、重症のCOPDの人が増悪を起こし、緊急入院。人工呼吸器を着けるため気管切開を実施、ようやく救命でき在宅酸素療法を開始している患者さんが、タバコがどうしてもやめられず、気管切開した喉の穴のところからタバコの煙を吸っている、という話でした。また、各国から火災、火傷事故があることが報告され、その多さにも驚かされました。並行して議論されたことは、酸素吸入の効果をどのようにして高めるかということでした。参加していた研究者が一致して主張したのは呼吸リハビリテーションの大切さでした。
 1985年に医療保険が使えるようになり、酸素療法はわが国では世界でも例をみないような形で進化してきました。ペティ先生が長期酸素療法の対象と考えたのは主にCOPDの患者さんでした。一番、多かったからです。米国とは異なりその当時、わが国で問題となっていたのは肺結核の後遺症で苦しんでいる患者さんでした。1985年当時、わが国にもCOPDの患者さんはたくさんいましたが医師もあまり注目しない病気だったのです。わが国では遅れてCOPDの患者さんが注目され、また酸素療法は間質性肺炎、肺線維症にも使われるようになり、現在では肺がんの患者さんにも多く使われるようになりました。なぜ、酸素療法がこのような広がりをみせるようになったのか。これは、なによりも患者さんたちの強い希望があり、他方、息切れで苦しむ患者さんたちを診ている医療者たちの辿たどりついた解決方法だったからです。このことは、改めて知っておくべきでしょう。
 

賢い患者になろう

 
 21世紀は慢性病の時代とも呼ばれます。高齢人口が多くなり、必然的に慢性の病気を持った人が増えてきました。高血圧、糖尿病、コレステロールが高い人、このような組み合わせでも元気で暮らしている人は大勢います。健診が広く行われるようになり、病気が早期に発見されるようになり、進行させないように早期に治療が行われるようになりました。予防や早期治療で脳梗塞のように急に起こり長い寝たきりの生活が続くという気の毒な状態を避けることができるようになりました。心房細動があると心臓の中で血栓ができこれが血液により脳に運ばれ血管を閉塞して脳梗塞を起こすことが知られています。心房細動がある患者さんでは血液が固まりにくくする薬を服用し心臓で血栓が作られないようにします。最近の新しい薬は便利で効果が大きく、予防的な治療はさらに進みました。不幸にも脳梗塞を起こした場合でも救急車で大きな病院へ搬送し血栓を溶かして治す治療も進歩しました。このように予防と治療がうまくかみ合い、結果的には寝たきりになるような患者さんは大きく減ってきました。
 薬の効果は脳梗塞の予防にみられるようにとても大きなものですが、私が診ている患者さんの中には、薬には頼りたくないと、自分の判断で薬を止めてしまう人がいます。興味本位で取り上げる週刊誌などの記事の中には、「不要」な治療として高血圧やコレステロールの治療薬を非難するような記事まであり、とまどいを持っている人が少なくありません。また、「薬は危ない!」などの警告に過剰に反応して必要な治療薬であるのに止めてしまう人がいます。薬は怖いから、というのがその理由です。大切な薬を止めることの方がもっと怖くなることが分かっていません。
 テレビや新聞広告には、サプリメントが効果的だと言い、中には薬よりも安全だ、と思わせるものが氾濫しています。サプリメントは食品として販売されているものがほとんどです。一つの薬が治療薬として使われるようになるまでには10年以上の研究が重ねられ、開発の費用は数百億円にもなるといわれています。効き目と安全性についてはとりわけ研究が重ねられています。それでいてもときには副作用がでることがありますが。サプリメントでは効き目のデータが乏しく、安全の立証の仕方も薬とは格段に違います。私たちが行っている医療費の7〜8割は薬代です。薬は高価なものだと認識して、決して無駄にしないようにして下さい。
 自分の病気は、究極、自分で治療していかなければなりません。医師は薬を処方できてもそれを正しく服用してくれなければ治療にはならないのです。また患者さんは、自分の体については自分が一番、知っているべきなのです。分からないことは納得ゆくまで聞きましょう。とにかく賢い患者になりましょう。
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 私が診ている患者さんの大多数は慢性病の方です。この記事を読んでいる方の多くが慢性病で治療を受けている方でしょう。
 慢性病には多くの種類があります。病気になってから死に至るまでをまとめると図1のように分けられます。
 タイプAは、慢性病はあるがほぼ元気で自分のことは自分ででき、買い物や旅行も楽しめるという人です。ほぼ亡くなる直前まで元気に暮らしている人です。私が年以上、診ていた人の中にもこのような経過の人はたくさんいます。長年、在宅酸素療法を受けているという生活でした。真夏に山荘で避暑生活をしていたときに、夜、急に気分が悪くなったと言い、近くの病院に搬送されたときには呼吸が止まっていて救命できなかった女性。老夫婦だけの普通の生活で夜だけ酸素を吸うという生活をしていた人が入浴後、いつもは聞かれるいびきが聞こえないので奥さんが見に行ったときは蒲団の中で苦しんだ後もなく呼吸が止まっていた男性。
 残された家族にとっては別れの言葉を聞く時間もなく、突然、訪れた不幸に泣くばかりとなりますが、去り逝く人にとっては苦しむ時間が短く、入院して重装備の機器に囲まれた治療の中で死んでいくよりもむしろ幸せでなかったかと思えます。進歩したとはいえ、いまの医療は、実は無限のいのちを期待して行っているものではありません。だとすれば、苦しむ時間をできるだけ短くできれば良い、という考えにたどり着きます。
 


 タイプBは、高齢になり体力が次第に衰え、歩けなくなり寝たきりに近い生活が長くなる人です。人間は長く寝込み、外からの新しい刺激が乏しくなると考え方も次第に狭くなり、脳の衰えも進みます。この場合には患者さん本人も気の毒だけれども介護する家族にとっても大変な負担になります。介護疲れという事件がしばしば報道されています。医師による往診や、訪問看護が入ったとしても家族の負担は避けられない。まして、近年、長く病院に入院したきりの生活が保険の制約もあり難しくなってきています。1、2週間の入院生活でも足、腰が弱くなり退院後は自宅で寝たり起きたりの生活になってしまいます。入院中のリハビリは病気がまだ急性期であり十分にできない。退院してから自宅で行うリハビリは、うまくいかない、結局、寝たきりに近い生活になってしまうのです。
 このようなタイプBの経過をとる場合の理由、原因の多くはそれまでの治療がうまくいっていないことが多いようです。薬を処方するだけでは治療とはいえない。生活全般にわたる、その人にとっての目配りが必要ですがこれを行ってくれる医療機関が少なく、力を入れてくれる医師が少ないことが問題なのです。この場合の目配りは、医学的には検査結果などに基づく科学的なものでなくてはなりません。優しい言葉をかけてくれる医師は必要ですが言葉は優しくとも結果が真に優しいものになるかどうかは別の話です。
 


 タイプCも医師の責任が大きい場合です。慢性病の結果、数年以上という長さでゆっくり全身の状態が悪化していき、その経過の中で急に病気が悪化するようなことが起こります。この急に悪化するようなことがうまく回避されていかなければその都度、入院が必要となり、入院を重ねるたびに全身の状態が悪化していきます。以前は、体調が悪ければ入院して調べましょうか、ということがありましたがいまでは極力、入院を避け元気な状態が継続することが大切と考えられています。このことは在宅酸素療法の場合には特に大切です。いかにその人を入院させず、できるだけ元気な状態を保ってくれるような医師を主治医に持つべきです。
 

 

酸素を持って明るい外に出よう!

 
 米国では「長期酸素療法」として出発したのにわが国では、「在宅酸素療法」に変化した経緯は先にお話ししました。「酸素療法」と「在宅医療」の組み合わせでは次の三つの場合があり得ます(表1)。
 


 パターン1は酸素療法が目的であり、これはペティ先生が考えていた長期酸素療法に近い場合です。COPDが主な対象となりますが、この場合には運動療法や肺理学療法が酸素吸入と同じくらいのウェイトで必要です。
 酸素吸入は病気が重くなり末期になった人が行う治療という誤った認識があります。酸素吸入を行いながらだんだん、安静にして寝たきりになってはなりません。酸素を吸いながら殆ど動かない安静な生活をおくってはならないのです。酸素を吸いながら元気を回復して活動度を高めようというのが本来の酸素療法の目的です。「酸素を持って明るい外に出よう!」を目標にしましょう。
 パターン2は、酸素療法と在宅医療の比重が同じくらいの人です。在宅での生活を快適にするため酸素療法を行うということです。酸素吸入がなければ息切れが強く、不安になり、夜も熟睡できない。酸素を吸うようになってからは食欲も出てきたし、体重も増えてきたという人たちです。間質性肺炎・肺線維症の患者さんに多いタイプです。
 この場合の運動も難しいことが知られています。わずかの運動で酸素飽和度が大きく低下することが多くみられます。酸素飽和度を低下させないよう、心臓に過度の負担をかけずに筋力をアップすることが必要です。
 パターン3は、動くと苦しく、外出もほとんどできない。足、腰の筋力の低下がある人たちです。あるいは、肺がんのように重い病気があって少し動くだけで苦しくなる人たちです。あるいは脳梗塞の後遺症があり、思うように運動ができない人たちです。

 在宅酸素療法の患者さんにアドバイスするときには一律にこのようにして下さい、というのが難しい事情がここにあります。
 患者さんが自分で、自分の病気が先に述べた慢性病のパターンAからCまでのどれに相当するのか、在宅酸素療法のパターンの1から3のどれに相当するのか、自分自身で判断することはできないと思います。しかし、治療にあたる医療者はどれにあたるのかを把握して治療にあたってもらわなければなりません。体力が落ち筋力も低下し、寝たきりになって酸素療法を行っている患者さんと、酸素療法はしているが仕事もしており旅行も楽しんでいるような立場の患者さんとでは、患者さんや家族の希望が異なることはむしろ当然です。
 患者さん本人がこれから先、あるいは急に病気が悪化したときにどのように治療するのか、をあらかじめ想定しておく必要があります。どの人も常に救急車で集中治療室に運び重点的な治療を望んでいるのではないことは、医療者はよく分かっているのですが患者さんの希望を聞いていなければ常に救命をめざすという目標しか生まれて来ないことは当然です。私は病気が悪くなり集中治療室で重症となったときに、「あなたは生命維持装置を着けることを希望しますか」という質問をなげかけて患者さんから聞くことは残酷だと思っています。そのようなことが起こったときにどのような治療を希望するかは、普段、元気なときに話し合っておくべきでしょう。