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J-BREATH 連載講座

講師:木田 厚瑞先生 

 呼吸ケアクリニック東京 臨床呼吸器疾患研究所 医療法人至心医療会 理事長


J~BREATH第85号 2016年8月号掲載

第17回 呼吸リハビリテーションに必要な情報

 
 前回では「包括的呼吸リハビリテーション」という考え方に行きつくまでのことをお話ししました。
 

在宅酸素療法を有効にする包括的呼吸リハビリテーション

 
 ここでは「包括的呼吸リハビリテーション」の考え方を紹介します。これは、私たちが過去年間にわたり研究、実践を一体化させ、進めてきた医療の新しい考え方です。「包括的呼吸リハビリテーション:チーム医療のためのマニュアル」として1995年に公害健康被害補償予防協会から出版され、約8,000部が全国の各自治体、保健所に配布されました。1995年の発表段階ではいわば理論でしたが2016年の現在では、実証されるデータが多数、発表されています。日本呼吸器学会が作成したCOPDのガイドライン(第3版、第4版)にこの考え方が引用されています。
 呼吸リハビリテーションは慢性の呼吸器の病気をもつ全ての患者さんに有効ですが私は一番、重い病気を持つ患者さんが最初に始めるべきであると考えています。すなわち、「包括的呼吸リハビリテーション」は在宅酸素療法の治療効果をできるだけ高めることが最大の目的です。その意味ではまさしく本紙の多くの読者に宛てた情報を言えるでしょう。
 流れは大きく三つからできています(図1)。
 


 第1は、「評価」ということです。これは診断という言葉にも置き換えらえますが、正確な診断だけではなく患者さんが生活している社会的な情報が大切です。誰と暮らしているのか、患者さんの病気について一緒に支えてくれる人があるのか、それは誰なのか、その人の健康状態は良いのか、という詳しい情報が必要です。また住んでいる自宅に階段があるか、どのような部屋、間取りで暮らしているのかが必要な情報となることがあります。それに合わせた運動を考える必要があるからです。
 第2は包括的呼吸リハビリテーションの各項目、すなわち「プログラム」です。
 第3は包括的呼吸リハビリテーションを受けた患者さんにどのような効果が期待されるかということです。「成果」ということです。
 

呼吸リハビリテーションに必要な評価

 
 呼吸リハビリテーションで効果を挙げるために大切なことは患者さんの病気を正確に知ることだけでなく、患者さんを取り巻く情報をきちんと知っておき、それに備えるということです。例えば、私が診ている在宅酸素療法をしている患者さんの中に息子と二人暮らしの人がいます。軽い認知症があります。息子は朝、早く仕事に出かけ、夜、遅くに帰宅します。この人の場合には、服薬がうまくいっているのか、食事の用意は誰がいつ手伝うのか、買い物は、交友関係はと、一日の生活パターンの全体が分かっていて初めて運動はどのようにする、酸素吸入はどのように行うのか、という患者さんの個別性に合わせた指導ができるようになります。
 わが国ではある時期まで肺結核が国民病と呼ばれるほど蔓延していました。前途ある青年たちの命を奪っただけでなく看取る家族も悲惨な生活に追いやられてきました。戦後になり肺結核の治療の目的で、ある時期に多くの人に対して肺の手術が行われた時期があります。肺結核からは何とか逃れることができても50年以上も経ったいま、その後の後遺症として息切れが起こり再び患者さんを苦しめる結果となっています。私は、いまでもそうした患者さんを数人、診ています。わが国で最初に呼吸のリハビリテーションが始められたのはこのような肺結核後遺症の人たちに対してでした。
 一方、米国では、はるか昔に肺結核を撲滅していました。米国で問題になってきたのは戦後、安い紙巻タバコが売られるようになり急に増えてきたCOPDです。重症となり息切れで困っている人が増えていきます。この人たちの治療の一つとして進められてきたのがリハビリテーションでした。つまり歴史的には北欧でポリオが流行し、その人たちの治療として行われてきたのが呼吸リハビリテーションというわけです。これが基礎となり、さらにCOPDに必要な情報が追加されていきます。
 COPDの研究は、ここ10年間で驚くほど進歩しています。新しい薬も使えるようになりましたが薬が効果を挙げるためにはそれ以外の多くの、情報や注意が必要です。リハビリテーションは最初のころは運動をすることだと思われていましたがこれだけでは足りないことは自明です。
 病気になっても全ての機能が失われるわけでは決してありません。人間にはなんとか元に戻ろうとする確かな復元能力が備わっています。「包括的呼吸リハビリテーション」のゴールは日常の生活で患者さん自身がもっている最大の機能を発揮することにより、できるだけ自分自身の力で生活することを目的とし、可能にするものです。
 

七つの基本プログラム

 
 「包括的呼吸リハビリテーション」は7つの基本プログラムとこれを支えていく精神的サポートから成り立っています。ここでは概略を説明します。
 

患者教育(特に禁煙と日常生活の指導)

 運動を安全に行うためにはどのような運動をどこまでの強さで、行う時間をどのくらいにするか、またどのくらいの頻度で行うかが決められていなければなりません。そのためには必要な心臓と肺の検査を行い、結論を出しておく必要があります。
 入浴、食事、排泄、睡眠など日常生活のすべてにわたり改善点を指導します。一度、禁煙に成功しても少し楽になると隠れて再び開始する人が多いので怪しいと思われれば反復して禁煙指導を行います。これは主に医師、看護師が指導します。
 

薬物指導

 薬の正しい使い方と効果、副作用について説明します。特に吸入薬の使い方は薬によって異なります。正しい使い方をしなければ効果がでません。これは医師、看護師、薬剤師が担当します。
 

栄養指導

 痩せている患者さんには体重を増やすように指導します。筋力を増強させるため高カロリー食、高たんぱく食の指導を細かく行います。
 太り過ぎの患者さんには減量の指導を行います。医師、看護師、管理栄養士が指導します。
 

酸素療法

 機器の取り扱いでは具体的に細かな注意点を指導します。酸素吸入の時間と量を正確に教えます。救急時の指導、災害時にはどうするかについても教えます。これは医師、看護師などが担当します。また酸素業者は自宅に設置したときに機器の取り扱いや注意を教えてくれます。さらにその後、定期的に機器のメンテナンスを行うために訪問します。
 

肺理学療法

 痰が多い場合には痰の出し方を指導します。息切れが強い場合には横隔膜をできるだけ有効に使った呼吸法を取得することが大事です。腹式呼吸は横隔膜呼吸法とも呼びますが、寝た状態、すなわち臥位の状態で練習し、慣れたら座った状態でもできるようにします。それができるようになればゆっくり歩いた状態でもできるように練習します。歩行など体を動かすときや重い荷物を持つとき、坂道を上るときなどには口すぼめ呼吸を行うようにします。生活行動の中に取り込むのがこつです。上手に行えるようになると息切れが良くなり酸素飽和度も数パーセント上がることが分かっています。これは医師、理学療法士、看護師などが指導します。
 運動は写真や図を眺めて同じことをしようとしてもうまくいきません。運動をどのように間違いなく行うかは実技指導が大切です。これには呼吸器の病気の治療に詳しい理学療法士の指導が向いています。まわりにどうしても専門の理学療法士がいないときがあります。医師、看護師らが指導します。スポーツジムのトレーナーの中には病気があることを考慮した運動の方法を教えてくれる人もいますが健康人が主な対象であり視点が異なるので任すわけにはいきません。
 

運動療法

 日常生活での活動度を高めるためには筋力をアップさせなければなりません。息切れをひどく感じさせず歩行距離を延ばすこと、また、歩行時には酸素飽和度がなるべく下がらないように、またエネルギーをなるべく使わないような省力化を覚える必要があります。息切れをやわらげるにはとりわけ上肢の運動が大切であるといわれます。生活の範囲を広げるためには下肢を鍛える必要があります。さもなければ筋力が低下し次第に動けなくなっていきます。
 米国での調査では、医師が患者さんに「運動して下さい」と言ったとき、「さあ」と返答に窮することが多いといわれます。医師が困惑するのは安全にできるか、効果を上げることができるか、についてはっきり指導できないことが多いからです。運動を病院やリハビリの施設で行うときは医師や理学療法士が立ち合いますのでできるだけ強めの運動を行いますが自宅で行うときは安全を考え弱めにせざるをえません。運動は強い運動で頻度を少なくするか、弱い運動で頻度を多くするかです。効果は両方とも同じに近いといわれています。私は自宅でしかも、自分一人で行う運動は弱めにして、1回を長く、できれば毎日、行ってもらうよう指導しています。根気良く、しかもあきらめずがコツです。
 運動を安全に行うためにはどのような運動をどこまでの強さで、行う時間をどのくらいにするか、またどのくらいの頻度で行うかが決められていなければなりません。そのためには必要な心臓と肺の検査を行い、結論を出しておく必要があります。
 COPDでは肺が狭い胸郭に囲まれた中で膨れ過ぎになっています。心臓は左右の肺に取り囲まれています。運動で激しい呼吸となるたびに膨れ過ぎの肺には強い力がかかります。それは強く心臓を押したり引いたりすることになります。激しすぎる運動が危険な理由がここにあります。実際、私が診ている患者さんの中には、自己流で強い運動をやり過ぎ、心臓の機能に異常を来した人がいます。「自己流の運動は危険!」を忘れないで頂きたいと思います。
 

社会活動と友人との交流

 若い、元気なころはあちらこちらへの旅行を楽しんでいたし、趣味もあった、多くの友だちもいた、年をとって、さらに呼吸が苦しくなるような病気を抱え、全てができなくなったと嘆く患者さんがたくさんいます。若いころと同じ行動を継続することが無理であっても、高齢になり、病気に合わせ趣味を続け、日常の活動を高め、旅行を楽しむ心のゆとりを持たなければ病気そのものの治療も難しくなっていきます。
 年をとっても現役で働いている患者さんもたくさんいます。私はどの患者さんにも病気だから仕事を辞めなさいとアドバイスをしたことはありません。私たち医療者の最大の役目は、いまの生活をサポートしていくことにあると思っています。いまの在宅酸素療法は患者さんからの強い希望があってそれに沿うように実現してゆくものなのです。多様な生活に応じられるように機器の種類も多くなり使いやすくなってきています。周辺機器の開発、改善も進んでいます。こうして欲しいという希望をたくさん出すことが進歩につながることを忘れないでください。
 

精神的なサポート

 
 在宅酸素療法の患者さんを含め多くの慢性の病気を抱える患者さんたちに必要なことは周囲からの支えです。これには物質的な支えとともに心の支えが大切です。在宅酸素療法の初期のころ、携帯ボンベの警報音が鳴るために好きな音楽会に行くことができないと相談されたことがありました。いまでは警報音が鳴らないように切り換えることができ解決されました。
 高齢社会は、言葉を換えれば大なり小なりの病気を抱えた人が多くなるということです。「障害者」とは日常生活、社会生活に相当な制限を受ける人のことです(広辞苑による)。相当でなくても病気で制限を受けている人は周囲にたくさんいます。少しでも元気な人が困っている人たちを助けていくという思いやりがなければ成り立たなくなっているのが今の社会ではないでしょうか。
 

フレイルを防ぐ

 
 「包括的呼吸リハビリテーション」は患者さん、および患者さんと生活を共にしている家族に対して行うものでありそれも継続的に行うものです。慢性の呼吸器の病気では長い経過で次第に全身の筋力低下が起こります。これに伴いだんだん普通に歩くのが苦しくなります。痩せてくることも問題です。このような、状態は最近、「フレイル」と呼ばれています。
 フレイルは英語のfrailty(フレイルティ)を簡単に表現する言葉です。Frailtyを辞書で見ると、もろさ、弱さ、を意味するとあります。COPDはフレイルになりやすい病気です。年老いて、だんだん動けなくなる病気は「老衰」といわれ高齢でおこる避けがたい状態と思われてきました。老衰とは老いて心身が衰えるという意味です。同じ老忰(ろうすい)という言葉も老いてやつれるという意味です。新聞の訃報欄には老衰で死亡、と書かれることがありました。老衰は古くから使われてきた病名ですが2010年の国の見直しで現在では死亡診断書にはなるべく使用しない病名とされています。さまざまな検査が可能となった今では医学的な見地から原因を推定できるようになってきたからです。
 老衰と呼ぶと避けがたいという響きがありますがフレイルは予防も治療もできることが分かっています。
 フレイルを防ぐ、これが「包括的呼吸リハビリテーション」の大きな目的の一つです。
 

チーム医療の大切さ

 
 フレイルが進むと認知症が進みます。活動度が低下し、認知症が加わってくると免疫能も低下し、さらに食事のときにむせるようになり誤嚥が多くなります。結果として肺炎が多くなります。肺炎は現在、死因の第3位であり、大多数が高齢者ですが背景にはこのような事情があります。こうなると病気は患者さんだけではなく同居している家族すべてを巻き込むことになります。治療費だけでなく介護にもお金がかさむようになります。さらに慢性の呼吸器の病気が怖いのは呼吸器だけの問題に限らないことが多いからです。呼吸器だけではなく全身についてさまざまな重さの病気が進んでいくことが怖いのです。包括的呼吸リハビリテーションは、呼吸器系だけでなく全身について目配りをするということが目的の中に入っています。
 医師は薬を処方するだけの治療ではとてもフレイルを予防できません。薬を決められたように服薬してくれるか、食事はバランスの良いものをきちんと食べているか、運動をしているか、多くの患者さんでは組み合わせた目で治療を行うことが必要です。これは「多面的な医療サービス」と呼ばれていますがこれを継続的に行う必要があります。慢性の病気の治療がむずかしいのは病気だけでなく患者さんを取り囲む生活環境が一人ひとりで複雑に異なっていることです。病気を持つその一人に対し隙間のない治療体制を組む必要があります。そのために必要なのがチーム医療です。野球チームではピッチャー、キャッチャー、ファースト、セカンドなどと自分の守備範囲を決め、その役回りについて責任をもって果たす。このときに監督となるのが担当医、かかりつけ医です。ピッチャーはバッターに向かって玉を投げるだけの人というとらえ方では野球チームが成り立つはずがありません。
 「包括的呼吸リハビリテーション」を軌道に乗せるためには「チーム医療」という考え方を持ち込む必要があります。一つのチームを構成する人たちは10〜20人にもなる可能性があります。その人たちの理解レベルを一定にしなければならない。患者さんに教える前に仲間たちに十分に教える必要があります。それぞれが守備範囲、役割を理解していて初めてチームとして成り立つのです。
 呼吸リハビリテーションは、オーケストラのようであると言われます。オーケストラでは指揮者がいて、その指示のもと全員が一致して演奏します。以前、読んだ本で知ったことですが国際的な指揮者の小澤征爾さんが大きな演奏会で指揮を始めた直後、うまくいっていないと感じすぐに中止の指示を出したところ、ピタリと全員一致で演奏を中止したことがあったということでした。演奏会では楽譜を見ながら演奏してのではなくて指揮者の指示に従い行動しているということが分かります。ところが日本の雅楽では指揮者となる人がいるのでしょうがその人の指示で行動しているのかどうかが分かりにくい構造になっています。つまり「阿吽の呼吸」ということでしょう。「包括的呼吸リハビリテーション」は阿吽の呼吸で行ってはならない、これこそが私が最初に感じたことです。
 医療は地域ごとにできることがらが異なっています。活動度が低下した高齢者では遠くまで出かけることが難しくなります。住み慣れた生活の場所の近くで治療できることが理想です。そのために地元にチーム医療が必要になります。患者さんの一人ひとりにどのようにチーム医療が組めるかが問題です。チームの人数は必ずしも多くそろえる必要はありません。もっとも少ないチームは医師と看護師のチームです。互いに補うようにして患者さんに必要な情報を、それも継続的に説明し、伝えていき、間違っているところがあればそれを修正していきます。