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J-BREATH 連載講座

講師:木田 厚瑞先生 

 呼吸ケアクリニック東京 臨床呼吸器疾患研究所 医療法人至心医療会 理事長


J-BREATH第86号 2016年10月号掲載

第18回 医療チームの総合力で進める呼吸リハビリテーション

 
 前回は、「包括的呼吸リハビリテーション」について私たちが「プログラム」と呼んでいる内容について説明しました。包括的呼吸リハビリテーションを行ったら身体にどのような効果が期待されるのかについてお話ししましょう。
 

病気の連鎖が怖い

 
 効果について説明する前に、慢性の呼吸器の病気で起こることを知っておく必要があります。多くの慢性の病気では次々と新しい病気が合併し重症になることが多いものです。例えば、中年のころは高血圧だけだったのに、コレステロールが高くなる脂質異常症が強くなり、さらに肥満となりいびきをかくようになり、糖尿病が加わり、しかも眠っているときに呼吸は止まるようになり睡眠時無呼吸症候群となり、それを放置していたところ発作性の心房細動を起こすようになりその結果、心臓の中で作られた血栓が脳にとび脳梗塞を起こした。私が診ている患者さんの中にはこのような病気の連鎖となっている人がたくさんいます。医師は連鎖が起こらないよう治療を行いますが、もぐら叩きのように薬を加えていけば今度は薬の副作用という新しい問題が出てきます。
 

呼吸器の病気で起こること

 
 慢性の呼吸器の病気は肺だけの病気ではありません。例えば、COPDという病気では肺だけでなく全身にさまざまな障害が出て、その結果、日常の生活が不自由になることがあ
ります。患者さんの半数は鬱(うつ)状態に近い落ち込みになると言われています。日常生活の中で重いものを持ったり坂道を上るたびに強い息切れがあれば、誰でも憂鬱になると思われます。COPDの遺伝子を研究した最近のデータでは、鬱になりやすい遺伝子を持っている人が多いことが分かっています。タバコにはニコチンが含まれています。そのニコチンは鬱を防ぐ効果があることからニコチン依存症となり、タバコから抜け出ることができない人は鬱に陥りやすい人が多いというデータもあります。タバコを吸う人の約15%がCOPDに罹ると言われていますがその中には鬱状態になりやすい人が特に多く含まれる可能性があります。
 COPDの患者さんでは肺の機能に異常が起こる前の早い時期で四肢の筋力が弱くなるような異常が現れるという研究があります。COPDは、肺に治りにくい炎症が起こりタバコを止めてもこの炎症は進みますが四肢などの筋肉にも肺と同じような炎症が起こることが知られています。
 動脈硬化はCOPDの患者さんに多く見られる病気です。特に心臓の冠動脈に動脈硬化が起こりやすくそのためCOPDの患者さんの約1/3は心臓病が死亡原因になると言われます。
 心臓だけでなく脳梗塞も起こしやすく、さらに下肢の動脈が細くなる閉塞性動脈硬化症も多く見られます。これは下肢に十分な血液が流れにくくなる病気であり、歩行で痛みを感ずるなどの症状が特徴的です。
 最近、新井はCOPDの特徴の一つである肺気腫があると身体に多彩な病変が認められるかを多くの解剖結果から明らかにしています(図1)。この中には認知症も上げられています。
 

 
 つまり、COPDという病気は「全身のいろいろな臓器に機能障害を起こす病気」といえます。これらは一人の患者さんで肺以外の病気があることを考えて治療しなければならないということで診る側の医師が常に全身に目配りをしながら治療をしなければならない理由です。患者さんの一人ひとりが置かれた状況を見定め、その治療は「全人的な治療」として展開することが必要です「。包括的呼吸リハビリテーション」は全人的に診るときの考え方であるとも言えます。
 一人暮らしであるか、あるいは誰と暮らしているのか、昼間は独居で夜間には家族が帰ってくるのか。買い物はどうしているのか、食事は誰が作ってくれるのか、薬を間違えずに服用したり吸入したりできるのか、などなど。これらのことが十分に分かった上で一人ひとりについてプログラムを作成し、治療を進めていきます。深くその患者さんの置かれた状況を知っているかによってきめ細かく治療の方針を決めることができます。多くの患者さんを診て、一人暮らしの貧しい人がつねに困っているわけでなく、逆に裕福な人が幸せに暮らしているのではないことを痛いほど感じます。これら全てが快適に生活を送る、すなわち毎日の生活の質(QOL)に深く関係しています。最終的にはそれらの総和がその人の寿命を決めることになるのです。
 

機能障害を検査する

 
 どの程度の機能障害があるかを知ることは治療を進めるうえで大切なことです。6分間平地歩行テストや体重、握力、栄養状態は簡単で繰り返し実施できる便利な検査です。これらによって多くのことを知ることができます。私たちは6分間平地歩行テストの結果を重視して診療しています。テストの結果は、ところどころで信号を見ながら地図を確認しながら走っているドライブのようです。いまどの辺を走っているか分からない状態で長い旅を続けてもいつまでたっても目的地が見えるはずがありません。さらに機能障害だけでなく、何ができて何ができなくなったかという「能力障害」、病気になって不眠や落ち込みをおこす「心理的障害」、友人たちとの交流もなくなる「社会的不利」をも知る必要があります。慢性の病気はこのようにして診ていかなければ病気で次つぎに起こってくる問題は解決できるはずがありません。
 

包括的呼吸リハビリテーションの効果

 
 一人ひとりの患者さんに対し確かな効果が表れる治療でなければ新しい治療法を開発したとはいえません。包括的呼吸リハビリテーションで患者さんに指導効果が期待できるのは以下の事柄です。
 
運動耐容能が良くなる
日常の生活の中で不自由なく暮らせるために必要な体力が回復しなければなりません。ここでいう運動は体力の限界を競いあう競技と同じ意味ではありません。快適に毎日を暮らすために必要な体力という意味です。買い物に出かけたり、家族や友人たちと出かけ、生活にうるおいを持たせるために必要な運動能力という意味です。毎日の生活を快適にするためには欠くことのできない目標です。
 
正しい機器類の使用
 在宅酸素療法では機器が正しく使えなければ効果を上げることができません。呼吸器の治療で難しいのは吸入薬が正しく使えなければ病気そのものを治療することができないということです。包括的呼吸リハビリテーションでは治療中の全てを通して吸入薬の正しい使い方を学んでいきます。また、在宅酸素療法で機器を正しく使うという意味は危険を起こさず、という意味もあります。もっとも危険なことは、酸素を「火」に近づけることです。タバコによる火傷、火災事故が後を絶ちません。絶対に禁煙は守って下さい。最近では、スマホの充電中に火災を起こしたという事故もありました。生活が便利になるに従い、新たな危険が発生することを忘れないでください。
 
アドヒアランスが上がる
 コンプライアンスとはあらかじめ決めておいた約束事、決まり事という意味ですがこれは患者さんの側に立った言い方ではないという意味からアドヒアランスと呼ばれるようになりました。患者さんが自主的な判断で治療に必要なことがらを守り続けていくということです。繰り返し、問題点を教えられることにより自分で気をつけていこうという意識が強くなってきます。これも包括的呼吸リハビリテーションの中では大切な事柄です。
 
自分自身を管理する能力を向上
 長い経過をたどる慢性の病気では自分自身が主役となり治療を続ける、これが基本です。欧米では、「セルフ・マネジメント」と呼ばれています。医師に任せているから安心という患者さんがいますが医師はたくさんの患者を診る立場にあり、それも短時間の接点にしか過ぎません。自分の病気を誰かに任せてはなりません。服薬や吸入薬をきちんと指示された通り使って初めて薬の効果が現れます。治療効果を高めるためにはこのセルフ・マネジメントの能力を可能な限り高めることが必要です。
 セルフ・マネジメントでもっとも大切なことは、急に病気が悪くなる場合です。これは「急性増悪」あるいは「増悪」と呼ばれます。特に慢性の呼吸器の病気では軽いカゼのような症状でも元の病気が悪化していく兆候であることがしばしばあります。実際に増悪を起こしたときの初期の症状を後から聞いてみると、最初はノドが痛かった、鼻水が出た、熱っぽい感じがした、とカゼそのものであることが多いものです。つまり、慢性の呼吸器の病気を持つ患者さんにとってはカゼこそが万病の元となることが多く、注意しなければなりません。カゼの初期には血液検査や胸部のレントゲン写真を撮影しても異常が見つからないことが多いのです。唯一といえる頼りになる情報は患者さんがいつもとは違うという、その自覚症状だけです。したがって最初に異常に気づいてくれなければどうにもならないのです。初期症状が現れてから48時間以内に治療しなければ今度は慢性の病気そのものが悪化していくと言われています。
 
病気を理解する
 治療する側の医師は患者さんにどのような病気であるかを説明しますが、問題はその内容がどのくらい正確に伝わっているかです。診察時間に十分な時間を割くのが難しい中で専門用語が入った説明はほとんどわかって頂けないのではないかと危惧します。深刻なデータを最初に説明するとその後の説明はほとんどわかってもらえないことが多いものです。例えば、胸部CTで肺がんが疑われるというような場合です。患者さんに説明するときに肺がんという病名を最初に出して説明すれば患者さんの頭は真っ白になり、それから後の説明が分かってもらえなくなります。また、分かってもらうための一番、良い方法は簡単な模式図をもとに、それにその患者さんに見られた変化を説明しながら書きこんでいくのが良いと言われます。私は患者さんに包括的呼吸リハビリテーションの総合効果病気を説明する場合にはほとんどこの方法を用いています。
 病気については、どのようにしてその病気が起こり、どのように診断し、その治療法と見通しの全てにわたって分かりやすく説明しなければなりません。患者さんの理解度に合わせて言葉を選ぶ必要があります。私はテレビ番組やラジオ放送に出演することがしばしばありましたが、「できるだけ分かりやすく」をくどいほど注意されました。説明は一番、分からないと思われる人に合わせた説明でなければなりません。高度な科学教育を受けた人だけが分かるような説明であってはならないのです。
 医師の説明だけでは理解できないことはむしろ当然でしょう。私たちのところでは診察後には看護師がさらに足りない部分を補うように説明を追加しています。また、説明だけでなく医師の説明のどの部分が分からなかったかを聞いてもらうようにします。この体制をチーム医療と呼びます。在宅酸素療法の患者さんでは、一人ひとりについて、チームがどのように組まれているかが重要です(図2)。図2は最大限のチームを示したものです。医師と看護師の役割は大きく、理学療法士、管理栄養士が加わることでチーム力はさらに大きくなります。ここで医療チームの理念は、主治医の責任を明確にすることであり、治療開始の時点から患者さんがチームの一員であることを自覚していることです。主治医は患者さんだけでなくチームの構成メンバーの継続教育に責任を持つことなどです。
 


 多職種となれば提供する医療は高まる可能性はありますが、チーム内で患者さんに教えていく技術が一定でなければ烏合の衆となる危険があります。必要な最低限は担当の医師と看護師がチームを組んでいるということです。つまり診療所がこれに当たります。医師から受けた注意情報は看護師により補い、患者さんからの疑問には医師、看護師が同じ内容の返事ができるようにしておかなければなりません。大きな病院が必ずしも適していないのは、医師―看護師のペア構造が分かりにくいという点です。在宅医療は、医療チームの内容がどのくらい充実しているかにより決まります。この時の医師、看護師が治療全般を熟知していなければならないことは当然です。
 

包括的呼吸リハビリテーションの総合効果

 
 前置きが長くなりましたが、「包括的呼吸リハビリテーション」がうまく進めば以下の点が効果として期待される項目です。
 
生活の質(QOL)が向上する
 COPDなど慢性の呼吸器の病気では、鬱(うつ)傾向になる患者さんが多く見られます。息切れが強い患者さんでは毎日の生活が苦しみを負ったものになります。鬱になることが多く、鬱になればなげやりになり、決められたように酸素吸入を行い、吸入薬を正しく使うという、治療もうまくいかなくなります。治療の効果はQOLが高いかどうかで判断します。ここでは触れませんがこの評価は数値で表すこともできます。寿命を延ばすだけが治療の目標ではありません。
 
日常の活動性が向上する
 高齢となり慢性の病気の治療を行っている患者さんでは年をとる、病気が重くなる、さらに新しい合併症が加わると、負の連鎖が起こる結果、日常の生活がだんだん追いつめられたものになります。友人たちとの交友が減り、家から出なくなり、自宅でテレビを見たり新聞を読んだりするだけのゴロゴロする生活が多くなります。そのうち、トイレへ行くことがやっととなりベッドに横たわる時間が多くなる。このようにならないためには日常の活動能力をできるだけ高める努力をしなければなりません。
 
病態が安定する
 まず、支障になっている呼吸器の病気を安定させる必要があります。慢性の病気は急に悪くなることがあります。COPDではカゼを引きとそれが引き金となり急に悪くなることがあります。それまでは階段を上るときに息切れを感ずるだけだったのにゼイゼイするようになり痰も増え、食欲も落ち痩せてきた、というような場合です。暮れにカゼを引いたあと、調子が悪くがまんができなくなりゴールデン・ウィークのころにようやく受診というような場合もあります。以前は「急性増悪」と呼ばれていましたが「急性」という言葉が誤解を招くという理由でいまでは、「増悪」とだけ呼ばれるようになりました。増悪の治療は症状が始まってから時間以内に開始すべき、と言われています。治療が遅れればさらに悪化し、夜中に救急車で病院を受診するというようなことが起こりかねません「。増悪」が起こらないよう、起こっても軽い治療で元にもどるようにする、病態を安定させることとはそのようなことです。
 
入院日数が減る
 「増悪」が重ければ入院による治療が必要になります。抗生物質を定時的に点滴しなければならないとき、多種の検査が同時に必要となる場合、血圧や呼吸状態が不安定で常時、看護師や医師がそばにいて見守ることが必要な場合には入院により治療をします。しかし、その場合でも普段の病態が安定している患者さんでは短期間の入院で済むことが分かっています。できるだけ入院となることを避ける、入院しても数日間の短期で自宅に帰ることができるようにする。外来での治療がうまくいっているかどうかの判断は、入院させないこと、しても短期間で退院できるようにすること、です。入院が長ければ栄養状態は悪化し、下肢の筋力は低下し、その後の自宅での生活が難しくなることもしばしばあります。
 
再入院の回数が減る
 入院を繰り返す患者さんがいます。これは普段の治療がうまくいっていないということの裏返しです。入院の回数が多くなれば多額の医療費がかかることになります。高齢者での医療費が多額になりつつある理由は、普段の治療がうまくいっておらず結果的に再入院を繰り返す人が多いこと、毎回の入院治療がうまくいかず長期の入院になっていること、次々と新たな問題が生じて入院が長くなっていることなどがあります。COPDの治療では特定の患者さんに入退院が多いことが知られています。その原因は患者さん側と診る側の医療者の両方に問題点があることを忘れてはなりません。
 
不安が減る
慢性の呼吸器の病気は、患者さんを不安にさせ、鬱傾向に陥る人が少なくないことは前にお話ししました。自分の病気はだんだん悪くなっているような気がする、病気のことは自分で調べても良く分からない、主治医に聞いてもほとんど教えてくれない、家族にも迷惑をかけている、このような状況に追い込まれれば誰でも暗い気持になり落ち込むでしょう。包括的呼吸リハビリテーションが効果を上げるのはこのような落ち込みを防ぎ、改善する効果が大きいことです。
 

チームで進めるリハビリテーション

 
 これまで述べてきたように「包括的呼吸リハビリテーション」は呼吸器の病気の治療に必要な要件を全て含むものでなければなりません。従来、呼吸リハビリテーションは理学療法士だけで行われていました。しかし、「包括的呼吸リハビリテーション」では理学療法士が全てを一人だけで行うことは不可能です。医療チームとして行っていかなければなりません。医師が指示を出し、その指示に従って診察や治療の手伝いをするというのが古くからのわが国の医療の在り方でした。包括的呼吸リハビリテーションの考え方は、それぞれが自分の持ち場で工夫して互いに創意工夫すること、仲間の間では緊密な協力体制を作り上げることが基本的な考え方です。その中で、患者さんが中心になって進められなければなりません。