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J-BREATH 連載講座

講師:木田 厚瑞先生 

 呼吸ケアクリニック東京 臨床呼吸器疾患研究所 医療法人至心医療会 理事長


J-BREATH第71号 2014年4月号掲載

第3回 病気をどのように説明するか

 

ラジオの健康相談


 昨年(平成25年)の3月まで10数年間、私はNHKラジオ放送の視聴者からの電話相談のコメンテータをしていました。呼吸器の病気で悩む全国の患者さんから電話がかかってくるのですが、その場ですぐに答えるという番組です。
 最初は軽い気持ちで引き受けたのですがすぐに、気を遣うやっかいな仕事を引き受けたことに気づきました。年間の予定は6回くらいで2ヵ月に1度くらいのペースですが、生放送であるため事前に調べたり、わからないからと手元に参考書を置き調べながら答えることはできません。
 当日、放送の30分くらい前、「本日の相談受付は呼吸器の病気の方です」と放送の間に短い説明が入ると、すぐに次から次に電話がNHKのラジオセンターにかかってきます。二人のベテラン看護師が簡単に問診を行います。どんなことに困っていて、何を聞きたいのか、という点の確認をします。ときには自分が病気でもないのになりすまして電話をかけてくる放送マニアがいることも知りました。ベテラン看護師はすぐにそれを見抜き、丁重にお断りします。
 スタジオでスタンバイして司会役のアナウンサーの向かい側に座っている回答者の私のところにメモが渡され、すぐに私と患者さんのやりとりが放送されるような形でつながれます。大体、3分間くらいで自分の病気と聞きたいことを説明してもらい、すぐに私が答えるという流れです。答えも大体、3分間くらいです。40分間くらいの番組ですがその間に5分間くらいニュースが入ることになっていますので、その直前に終わるように話をしなければなりません。一人の相談が完結するのは、「よくわかりました、ありがとうございました」という言葉。その言葉を相談者から引き出さなければならないのです。納得してくれなければ電話がつながって時間がたつばかりです。20秒間だったと思いますが沈黙時間が続くとラジオでは事故届けを出す決まりがあります。話し続けなければならないのです。急に予定外の難しい質問が入ったり、想定外の話しがあったり、放送禁止用語がつかわれこちらもアナウンサーも慌てるということもありました。辞めるなら代わりを探してといわれ結局、番組終了まで付き合うことになりました。
 生放送で全国に自分の声が流れていると考えると緊張しますが、不思議なことに患者さんと二人で話しあっていると診察室で初診の患者さんと向かい合っているような気持になり落ち着いてきます。診察室で患者さんを診る場合に、この人は難しそうだからスキップというわけにはいかないわけですから、緊張感は放送のスタジオであろうが診察室であろうが同じです。回を重ねるごとに放送が楽しみになっていきました。
 放送の担当を始めてよかったことは、患者さんに分かりやすく、それも短い時間内に説明するという技術力が自分で格段に高まってきたことが分かるようになってきたことです。医師は、診察し治療するという技術については訓練され続けているのですが、人にものを教えたり、説明したりという技術を学ぶ機会は殆どありませんから。
 3月に小さな解散パーティーを開いてくれました。NHKの偉い人が出てきてラジオ放送が始まってから80年になるのだけれどこの番組は40年の歴史がある、というような挨拶を聞き、ああ、人気番組だったのだと知りました。大変な緊張を必要とする仕事でしたが、この仕事を引き受けてプラスになったことはたくさんありました。
 

患者さんが中心


 患者さんに短く、分かりやすく説明する。ラジオは身振り手振りや絵を書いて説明することができないので、言葉だけで説明する技術力がアップしました。また、多くの患者さんの悩みは、検査や治療はそう間違いなく受けているのに担当医に不信感をもっている最大の理由は医師の説明が下手なのだと気づきました。短時間でたくさんの患者さんの診察をしなければならない日本の医療事情では医師がこうしたいと思っていても時間が割けないという悩みがあります。
 慢性の病気ではなによりも患者さんが中心でなければなりません。「患者中心の医療」という言葉は最近、とみに欧米で使われるようになってきました。患者さんは自分が付き合っていく病気についてよく知っておくことが必要です。自分の病気を自分ができる範囲で最大限、理解する。理解して決めた治療は医師や看護師にお任せしますというのではなくて、自分の判断で進めていくことが大切です。あるいは自分のいのちに責任を持つといったほうが良いかもしれません。隠れてタバコを吸う、あるいは糖尿病の患者さんが隠れて禁止されている甘いものをたくさん食べる、というようなことはあってはならない。自分が治療の主役であるという自覚を強くもってほしいと思います。すべての患者さんは公平で最良の医療を受けるという権利があります。あなたの病気が少しでも良くなってくれるよう、医療者は、夜遅くまで勉強したり、議論したり休日にも集まって研修を受けたりしています。患者さんに見えないところで精一杯がんばっている若い医療者の連中をみるとき、この誠意と真摯な気持ちができるだけ患者さんに届いてくれるよう願うばかりです。医療は患者さんと医療者が互いに息が合った二人三脚で取り組んでいってほしいと思います。
 

難しい病気


 病気の中で一番、質問が多かったのは、間質性肺炎と非結核性抗酸菌症でした。「病気を治す治療はありません、経過をみましょう、次回は3ヵ月くらい後に来て下さい」と患者さんに説明すると、患者さんは医師が大事なことを隠しているのではないか、腕が悪いではないか、医師を変えた方がよいのではないか…。転々とあちらこちらの病院を受診することになります。都会に住んでいる人はまだ訪ね回る病院があるから良いのですが地方で、それも医療過疎のところに住んでいる人はとても気の毒です。心配でどうにもならないのに、不便な過疎地に住んでいる、高齢で自分ではどうにもできない、といって家族にも迷惑をかけたくない。本当に気の毒な人の相談をたくさん受けました。
 

女性に増えてきた非結核性抗酸菌症


 肺結核を引き起こす結核菌は、抗酸菌と呼ばれています。これは標本をつくるときに酸にさらしても脱色することがない菌という意味です。喘息を悪化させるのは好酸球という血液の中の細胞ですが、漢字でみると反対の意味ですから注意しましょう。抗酸菌という名称に結核研究の歴史を感じさせます。
 抗酸菌のうち結核菌でないものを広く「非結核性抗酸菌」と呼びます。土や水など、生活環境に広く分布しており水道水の中にもいるといわれます。土ぼこりや水しぶきなどに混じっているので吸いこみ、気管支を経て肺の中に病巣を作ります。受診する人の多くは、セキや痰が続く、ときに血痰がでる。体重が減ってきた、寝汗をかく、という結核とよく似た症状で受診します。胸部のレントゲン写真でもときには空洞をともなう白い影があり、私たちをあわてさせます。
 結核であるか、非結核性抗酸菌症であるかは痰を調べることで分かります。両者はDNAが違いますが、最近ではこの検査が簡単にでき便利になりました。非結核性抗酸菌症の8割近くはMAC(マック)と呼ばれる菌によりおこるものです。MACはよく似た2種をまとめて呼ぶニックネームのようなものです。結核と違って人から人に感染する危険は低いので肺MAC症と診断され、菌が痰の中に出ていることが確認されても隔離入院する必要がありません。怖いのか、怖くないのか、治療薬を服用した方が良いのか、放置しても大丈夫なのか。非結核性抗酸菌症は正体が分かりにくく、説明しにくい病気の一つです。その最大の理由は、実態がよく分かっていないことです。
 

明らかになったわが国の実態


 最近、複十字病院のグループが、長年にわたり集めてきたデータとわが国での実態を詳しく調べ、米国の呼吸器専門雑誌に発表しました。雑誌は今年になり創刊された新しい雑誌ですがその表紙を同院の全景で飾るという栄誉を受けました。呼吸を専門にしている私たちにとってもとても興味のあるデータです。論文の内容を簡単に解説したいと思います。
 

 

 研究は1970年ごろから最近に至るまでをみたものです。1990年代から患者さんが急速に増えてきています(図1)。特に2005年以降は女性が増えています。2004 年から2006年までの間に同院を受診した計309人の患者さんのうち200人が女性でその平均年齢は67歳でした。60歳代の女性に急増している理由は不明です。症状で多いのは痰です(全体の55%)。これに対し、3分の1ではセキも痰もありませんでした。血痰は14%、発熱は約8%。逆に何の症状もない人は34%です。これをみると健診の胸部レントゲン写真で異常といわれ検査をした結果、MAC症と判明することが多いことが分かります。気になる死亡率ですが約1〜2%の低さでした。亡くなった人たちは少数に過ぎませんがこの人たちと生存した人たちとの治療の違いについては残念ながら不明です。以前から非結核性抗酸菌症の多い県と少ない県があることが知られていましたが、今回の全国調査で太平洋側に比較的多いことが判明しました(図2)。
 なぜ、60歳台の女性で急に増えつつあるのか、病気にかかる人の多さに地域差があるのか、新たな疑問は尽きません。
 

 

非結核性抗酸菌症の治療をどうする


 しかし、これまで漠然と想像していた実態がやはりそうかとわかったのはとても大きな進歩です。治療は基本的には投薬です。クラリスロマイシンや結核に使われる薬などを服薬するのですが、少なくとも1年以上の長さになることが多いことも患者さんを憂うつにさせる原因です。また結核の薬には視力障害などの副作用もあるし、治療で必ず治りますと言い切れないのが医師のつらい立場です。結核は治せる時代になったのにそれより緩めの肺MAC症は、依然として治すのが難しい病気です。結局、医師は患者さんの状態を見極め、薬で徹底抗戦を行うか、様子を見るか、という選択になります。「病気を治す治療はありません、経過をみましょう、次回は3ヵ月くらい後に来て下さい」と患者さんに説明することになるのですが、よく分からないというデータでもどこからがよく分からないのかがはっきりしたことで患者さんに説明するのが少しは自信をもってできることになりました。複雑な実態の一部が垣間見えてきたことから医師にとっても研究者にとっても突破口が少し見えてきたような気がします。
 近代医療の研究は気が遠くなるほど長い年月をかけて少しづつ積み重なって現在の形に至ったものです。見かたを変えれば死屍累々の患者さんの犠牲を目の当たりにするからなんとかしたい、という多くの医師、研究者の熱意がここまで押し上げてくれたというべきでしょう。これはこれからも変わらないと思います。