photo-1514923995763-768e52f5af87_1080.jpg 活動へのご支援をお願いします。 photo-1495653797063-114787b77b23_1080.jpg ひとりで悩まず、お声かけください。 会報紙「J-BREATH 」 「J-BREATH 」第121号 2022/8/25発行 img20220809111242763953.png 2022ラング・ウォーク は10月29日開催

HOME | バックナンバー | J-BREATH連載講座 | 木田先生連載6

J-BREATH 連載講座

講師:木田 厚瑞先生 

 呼吸ケアクリニック東京 臨床呼吸器疾患研究所 医療法人至心医療会 理事長


J-BREATH第74号 2014年10月号掲載

第6回 変わってきた間質性肺炎の治療

 

薬が起こす間質性肺炎

 
 前回の間質性肺炎の話を続けます。
 私がいま診ている患者さんの中にも間質性肺炎で治療中の人がかなりいます。そのほとんどは他の病院で胸部のレントゲン写真を撮って初めて指摘された人です。典型的には左右の肺で広い範囲にわたり白く、あるいは毛羽立って多数の線が複雑にいり混じって見えます。肺の下の方では蜂の巣のように見えることがあります。
 間質性肺炎は増えてきています。日本だけではなく欧米でも同じ傾向があるといわれていますから、何かしら分かっていない共通の原因があってじわりじわりと忍び寄ってくるようでとても不気味です。
 古くは慢性肝炎やカゼの治療に使われた小柴胡湯が間質性肺炎を起こすことが分かり、漢方薬には害がないと思っている人たちに衝撃を与えました。最近では肺がんの治療薬、イレッサが副作用で間質性肺炎を起こし、肺がんよりも間質性肺炎が悪化して亡くなった方が多数あり社会的問題となりました。実はイレッサだけではなく近年販売となっている多くの薬の副作用で起こす間質性肺炎が知られています。これは薬剤性間質性肺炎と呼ばれています。新しい薬は古く使われてきた薬よりも「切れ」がよいといわれます。昔の薬より効果がはっきりでるということでしょう。効果ははっきりでるが副作用もはっきりでることが多くやっかいです。
 患者さんに薬の説明をすると副作用のない薬にしてくださいという人がいます。当然、そうしたいと思っていますが残念ながら薬では作用と副作用は表と裏のいわば一体化した関係です。副作用のない薬はないということをはっきり認識してほしいと思います。重い副作用を避けるために医師と患者さんは互いに連絡を取り合い二人三脚で走っているつもりでいなければなりません。
 

羽毛のふとんが起こした間質性肺炎

 
 昨年(平成25年)11月、英国の有名な臨床雑誌「ランセット」にびっくりするような論文が載りました。間質性肺炎が疑われた計300人あまりの患者さんを診断が正しいかどうかを区別し、最終的に確実な46人を選びました。そのうちの20人は過敏性肺炎でありしかも羽毛の入った布団や枕、ジャケットを長年、使っていたことが原因ではないかと推定されたのです。
 過敏性肺炎は湿った床などに生えているカビや動物や鳥の糞や羽毛などを繰り返し吸い込んでいるうちに肺が感作と呼ばれる過剰の反応を起こすようになり、その後に同じもの(抗原)を吸うと肺胞にアレルギー反応による炎症を広い範囲で起こすのです。鳥が原因の場合を鳥飼病と呼んでいます。炎症が長い間(数ヵ月~数年)続くと次第に肺胞の壁は厚くなり、もとに戻らなくなります。慢性化し間質性肺炎から肺線維症という状態になってしまうのです。過敏性肺炎は身近なところにあるものを繰り返し吸うことで起こりますが、職業曝露やペット飼育など住んでいる生活環境に大きく影響されます。じめじめした梅雨から夏、風呂の床などに生えるカビが原因で起こる夏型過敏性肺炎はトリコスポロンというカビが原因です。いまから30年以上、前の時代には木造の古い家が多く、カビを吸って肺に間質性肺炎を起こす人が西日本に多くみられ社会問題となりました。住環境が格段に良くなったいまでも同じことが起こっているかどうかの実態は不明です。
 英国で問題となった鳥飼肺は鳩やインコを飼っている人やその周囲で発症することがある病気です。家の中でインコを放し飼いにして飼っている人が重症の間質性肺炎となり受診した患者さんを私も診たことがあります。先の論文で起こった過敏性肺炎はダウンジャケットや羽毛布団を使っている人の一部にやっかいな病気を起こす人がいるというのです。おそらく古くなったダウンジャケットから漏れ出るほこりはごく微量でしょう。それでも間質性肺炎を起こすことがあるとこの論文は警告を発しているのです。私たちの住んでいる環境は急速に変わってきています。その中で新しい病気も発見されているということです。注意しましょう。
 

難病に指定されている特発性間質性肺炎

 
 粉じんの舞うような職場でマスクなしで働いていた人にも間質性肺炎が起こることがあり、職業性間質性肺炎と呼ばれています。関節リウマチのような膠原病に伴って間質性肺炎が起こることは良く知られています。この場合には膠原病に関連した間質性肺炎と呼ばれます。これら原因が分かる場合とは別に特発性間質性肺炎とは原因が特に分からない場合をさします。
 特発性間質性肺炎の患者さんはわが国の調査では、10万人あたり約20人だといわれています。米国でははるかに頻度の高い病気で10万人あたり63人、他方、欧州では23人といわれています。間質性肺炎であることが分かっても原因が特定できなければ特発性間質性肺炎ということになります。日本人で少ないのではなくわが国では専門医のところで厳密に検査し区別する結果、他国に比べて少ないのかもしれません。本当は病気があるのだけれども気付いていない人まで入れるとこの10倍以上の患者数になるという意見もあります。
 特発性間質性肺炎は男に多く、特に50歳以上に発症する人がほとんどです。
 特発性間質性肺炎の原因として注目されるのが喫煙です。いまタバコを吸っている人だけでなく過去に吸っていた人でも発症の頻度が高いことが分かっています。
 特発性間質性肺炎は難病の中に指定されており医療費の公費負担の制度があります。間質性肺炎には治療費がかさむので、この病気に相当するのかどうかは患者さんにとってはとても大切なことです。
 以下に特発性間質性肺炎で注意すべきことをお話ししましょう。
 

分かりにくい初期症状

 
 痰がほとんどでない空咳や、階段や坂道を上るときに息苦しいというのが主な症状です。この病気はゆっくり進んでくることが多いことが知られています。肺の病気は数日で重くなる肺炎のような経過が早い場合、反対にゆっくり進む慢性の病気、その中間の亜急性とよばれるものがあります。慢性に進行する場合には少しずつ進んで息切れも強くなってきているのに自分ではなかなか気がつかない人が多いようです。駅の階段を上るのに同世代の人よりも遅れていくようであれば何か異常なことが起こっていると思って下さい。空咳が止まらない場合に多くの患者さんはカゼが治らないと言います。カゼと思っても2週間以上、セキが止まらない場合には受診をお勧めします。
 

バチ指で気付く

 
 診察のときに特に注意をしていることは指の先が太鼓のばちのように膨らんでいることがないかという点です。診察する私たちはこの変化を重要視して注意深く見ることにしています。確かな変化があるのにほとんどの人が言われるまで知らなかったといいます。ニーチェは「知らないものは見えないのだ」といいましたが、知らなければ自分の体の変化であっても気づかないことが多いものです。図1はバチ指の見分けかたを示しています。親指の表面どうしを合わせたときにひし形ができるかどうかが問題です。ひし形ができない人はバチ指になっている可能性があります。一度、あなたや家族の指をその目で見直してはどうですか。
 


 私たちが診断で次に重視しているのは胸部の聴診での異常です。聴診器は、ていねいに聴くと肺の内部に起こった状況が良く推定でき簡単にいつでもでき、まことに重宝です。聴診器は1816年、フランスの医師、ルネ・ラエンネックが発明しました。子どもが木の棒の端に耳をあてて遊んでいるのを見て思いついたといわれています。初期の聴診器は、1本の筒形の木でできた簡単なものでした。その後、ドイツの医師、トラウベがより音を大きく聴くため患者にあてる部分をじょうろ型にしました。1855年には、米国の医師により両方の耳にかける今のような形のものが発明されました。聴診器で肺の様子がどうしてわかるのだろうかということですが、肺に取り込まれる空気は気道を通りぬけるのですが病気で気道が細くなっていれば細いところを通るわけですから笛を吹くような高い音になります。また気管支の中に痰が詰まっていれば、大きな呼吸をしたり咳ばらいをした後で聞き比べると痰が気管支の中で動き回るのでゴロゴロする音が聴かれます。正常なときに聴かれるべき音が聴かれず、反対に正常では聴かれない音が聴かれれば病的ということになります。
 間質性肺炎では背中で肺の下(腰に近いところ)で聴くとちょうどマジックテープをはがすようなバリバリするような音が特徴的です。左右の肺で同じように聴かれることがふつうです。これが聴かれれば間質性肺炎がありそうだと見当をつけます。
 

胸部レントゲン写真で見られる特徴

 
 間質性肺炎は肺胞の壁や間質と呼ばれる肺の広い範囲に治りにくい炎症があることが特徴です。健康な人の肺の容積は5リットルくらいあります。患者さんに説明するときにはバケツを伏せたような大きさと説明すると分かってもらえます。間質性肺炎ではこの容積が小さくなっていくのです。肺に起こる炎症は主に肺の下の方から進んでいきます。外側に近いところの方が内部よりも息を吸ったり吐いたりしたときに動きが大きい。間質性肺炎は肺の外側の方から広がっていくことも特徴です。肺の外側から起こるので聴診では聴きやすいということがあります。レントゲン写真では網の目のようであったり蜂の巣のように見えることがあります。図2は典型的な特発性間質性肺炎の患者さんのレントゲン写真です。
 

 

部CT撮影の強み

 
 CTはコンピューター断層撮影のことです。CT装置は英国人、ハウンズフィールドによって発明され(1967年)、1972年に製造して発表しました。他方、米国人、コーマックは独自に同じ装置を発明しました。この功績により二人は1979年のノーベル医学生理学賞を受賞しました。現在、肺のCTはヘリカルスキャンと呼ばれている方法で撮影されています。これは連続回転する線源(X線を出す部分)の中にある寝台を一定の速度で動かしながら撮影する方法です。撮影されている患者さんから見ると線源が、らせん状に動くことになります。この機器では一度の息止めで肺の全体を写しだすことが可能です。短時間に撮影が終わり被爆するレントゲン量が少なくて済むという利点があります。
 さらに新しい機器は高分解能で細かな病変が読み取れるようになりました。これは高分解CT、私たちは略してHRCTと呼んでいます。HRCTは通常のCTが食パンのような厚さで切ったものを上から見るような感じですがHRCTでは薄く切った生ハムを上から見るような精緻な構造が読み取れるようになりました。間質性肺炎の研究はこれに合わせて大きく進歩しました。
 レントゲン写真ではおぼろげな混在した陰影はHRCTでは実に細かく読み取れるようになってきました(図3)。