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J-BREATH 連載講座

講師:木田 厚瑞先生 

 呼吸ケアクリニック東京 臨床呼吸器疾患研究所 医療法人至心医療会 理事長


J-BREATH第77号 2015年4月号掲載

第9回 どのようにCOPDと付き合っていくか

 
 前号ではCOPDの研究がどのように進められてきたかについてお話ししました。これからは日常生活の中で患者さん家族が知るべきことがらを中心にお話ししたいと思います。
 

持つべき情報の大切さ

 
 慢性の病気の治療でもっとも大切なことは何かと聞かれたら私はためらわず患者さんへの情報提供、すなわち教育をあげます。
 私が日常の診療で診る人は大部分が成人でしかも慢性の病気をもっている人です。第一線でバリバリ働いている人やすでに功成り名遂げた高齢者をあらためて教育するとはどういうことなのか。聞きようによっては不遜きわまりない言葉でしょう。教育という言葉の響きは上から目線の一方的な施しのように響き、あまり好きになれない言葉です。本来は対話で進められるべきなのに、受ける側と与える側がある。慢性の病気の患者さんは自分自身のために必要な情報を得るという目的ですから、明らかに患者さん自身のためです。欧米ではセルフマネジメントという便利な言葉があります。自分自身を御する、そのための手法を知る、これが、私が言おうとしている患者教育の意味です。
 インターネット時代となり病気に関する情報を得ようとすれば簡単に、それこそ際限なく、短時間の間に情報を集めることが可能となりました。私は「知識」と「情報」は区別しています。知識とは、本で調べたりネットで得られるようなその病気に関するものです。ネットやテレビ、新聞、雑誌にはそれこそ怪しいものまで氾濫しています。そのようなものは知識としてまとめられるもので、必ずしも患者さん本人の役に立つかどうかは疑問です。他方、「情報」はその人に役立つ、その人がいま必要としているということがらを意味します。自覚症状の変化、病気そのものの重さや、病気どうしの重なり(合併症、あるいは併存症と呼ばれています)など全てにわたりその人が持たなければならないものを私は「情報」と呼んでいます。いまの状況に合わせているかどうかが問題です。情報は提供する側が患者さんの病状や仕事や環境や家族関係まで深く踏み込んでいなければ正確で役に立つものとはなりません。大きな病院が必ずしも役立つ情報をくれるかどうかは分かりませんし、いわんや3分間診療で十分な情報提供ができるとは思えません。
 

患者さんの教育

 
 成人が教育を受けたいと望むときは子供のころや青年期とは状況が異なります。学校での教育はいわば基礎学力をつけることを目的として一定のカリキュラムで行います。これと医療機関で行う患者教育とは明らかに目的が違っています。学校での教育は学力が低下しないように教えていきます。しかし成人期に達してからの教育はその人だけに必要な高度の応用編になるわけです。その内容はあなたがいま必要な「情報」でなくてはなりません。目的も教育提供の手法も、学校のそれとは異なっていることは当然でしょう。バンドーラは成人の教育論を著した人ですが成人が学ぼうとするときは実践的ですぐに役立つものを入手したがる傾向があるといいます。自分の仕事の上や交友関係の中で役立つものを簡単な方法で入手しようとするというのです。最近ではインターネットを利用して細切れ情報はあっと言う間に手にいれることができるようなりました。自分の病気は自分のいのちや生活の快適さや医療費の支払いなど全てに関わっていますから、他人事のように聞くわけにはいきません。
 私が診ている患者さんの多くがインターネット情報を利用している人です。薬や最新の研究についても周辺の情報をすでに手にいれてから受診する人が多くなりました。インターネットを駆使しコンピューターで患者を診察させれば正確で安上がりではないか、態度の悪い医者に頭を下げる必要もないと、将来はこうなるかも知れませんがこれはいま使われているようなコンピューターでは到底、無理でしょう。
 慢性疾患はつねに患者さんに必要な情報の提供をその時機に即して行わなければなりません。それを行うと医療機関では保険を払うところに「慢性疾患指導管理料」を請求できる仕組みになっています。もちろん患者さんの負担もあり、窓口で支払うことになります。またそれとは別個に管理栄養士が行う栄養指導もあります。調剤薬局では薬を処方箋の指示に従い処方するときに必ず服薬指導を行っています。ここでもまた指導管理料が取られています。リハビリテーションも広い意味では情報であり、教育です。COPDのリハビリテーションは別個に規則が決められています。
 教育や指導はあちらこちらの診察のたびにお金を取られていますが、それに見合った正しく、十分な情報をあなたはちゃんともらっていますか。
 

COPDに必要な情報

 
 COPDは糖尿病や高血圧がそうであるように生活習慣病の一つです。生活習慣病はありふれた病気であり、その数が多いのが特徴です。その治療では日常生活の悪しき習慣を改めることが治療の第一歩です。何が悪いのか、どう改善すべきか、患者さんの立場ではこれが最初でしょう。COPDの研究は急速に進んできましたがその背景には新しい薬が続々でてきたということがあります。これからもこれは続くと予想されますが他方で使い方が少しずつ異なるという難しい事情があります。呼吸器の病気を専門に診ている医師にとってはいい知らせですが専門でない医師にとっては複雑でやっかいで気を使うことが多くなります。
 最近の新しい薬の中には一つのカプセルに2種類の薬が入っているものが出ています。1回の吸入で2種の薬を吸うわけですから便利が良い。ところがよく似た名前でどれが1種類でどれが2種類なのかで間違いが起こりそうです。最近も同じ作用の薬を2種類処方され、その副作用でかえって苦しくなったという人が受診されました。患者さんの側に立てば薬の注意は複雑でよく分からないと不満を漏らす人が多くなりそうで心配です。
 

「日本COPD対策推進会議」とは何か

 
 私はCOPDという病気は呼吸器の専門医と、必ずしも専門でない開業医が協力しあって治療するのがもっとも良いと主張してきました。日本医師会ではこの考え方を受け入れ、2011年、「日本COPD対策推進会議」を立ち上げました。これは日本医師会長が「会長」で、中に日本呼吸器学会、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会、結核予防会、GOLD日本委員会が入っています。専門医グループと開業医の先生方が互いに協力しあって患者さんを診ていこうという趣旨です。
 「日本COPD対策推進会議」では、分かりにくいと言われるCOPDの診断や治療の方針を簡単に説明したものを作成し、それを全国の開業医の先生方に配布しました。これは「COPDのエッセンス」と呼ばれています。これまでに改訂を重ね、第2版を昨年5月に日本医師会の会員で、主に開業医の先生方の全員、約20万人に配布しました。私は第1版、第2版の「COPDのエッセンス」作成のまとめ役でした。これは開業医の先生方が簡単に、しかも間違いなくCOPDの治療ができるようにという目的で作成されたものです。これは分かりやすく解説してあるのが特徴です。
 

COPDの患者数

 
 COPDの患者さんは、わが国ではナイス・スタディという疫学調査の結果が知られています。これによればCOPDの有病率は40歳以上の8.6%でありその総数は530万人と報告されています(図1)。調査は2001年度であり、それ以降、高齢者人口の比率はさらに増えたので現在では恐らく700万人以上のCOPDの患者さんがいると思われます。不思議なことに、地域ごとにCOPDの患者数の実態調査を行った報告がありますがこれが見事なほど地域ごとに違っています。隣あっている県でも大きく異なっている。米国でも同じで隣り合う州で患者の有病率はかなり違っています。この理由は分かっていません。
 問題点の第1は、圧倒的に男性に多いことでこれは男性の喫煙者が多いためです。しかし女性の喫煙者が若い世代で急増しており米国では男女が逆転しています。残念ながら禁煙政策が進んでいないわが国でも同じような事態になることは確実です。第2は、タバコを吸わない非喫煙者が5%以上いることです。COPDはタバコを吸わない人にもあることを知ってほしいと思います。
 

 

治療の概要

 
 COPDの治療は、禁煙、予防接種、栄養指導、運動療法、併存症の適切な管理などの生活指導と薬物治療、増悪対策、患者・家族のセルフマネジメントを支える包括的呼吸ケアに分類できます。このうち、全ての患者さんにとって生活指導が最も重要です(図2)。
 

 

もっとも大切な禁煙(図3)

 ポイントは以下の2点です。
 禁煙はどのような薬よりも効果的です。症状を確実に改善します。吸いながら薬を使うことは意味がありません。
 禁煙によりせっかく症状がよくなっても再喫煙する患者さんが少なくありません。
 止められない場合には医師にご相談ください。禁煙には、(R)チャンピックスの投与が効果的です。ただし、禁煙外来を開いていなければ保険適用とはなりません。

 

 

予防接種を受けましょう

 インフルエンザワクチンを毎年、秋の早いうち必ず接種しましょう。また、肺炎球菌ワクチン接種も大切です。肺炎球菌ワクチンは、初回接種から5年以上経過した場合に、患者や医師の判断による再接種が可能となりました。しかし、3回目の肺炎球菌ワクチン接種が有効だという医学的な根拠は示されていません。肺炎球菌は、1日の大半を自宅で過ごす人がかかる肺炎の3割以上の原因となる菌です。現在、約90種類以上あることが知られています。そのうち23種類をカバーするのが23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(R)ニューモバックス)です。このほかに沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(R)プリベナー13)があります。前者は23種類の肺炎球菌を予防する効果が期待され、後者は13種類ですが抗体を作る効率が優れています。接種の前によく説明を聞きましょう。
 
栄養指導を受けましょう(図4)
 COPDの患者さんの体重が減少してくると予後を悪化させます。入院回数が多くなったり、次第に動けなくなってきます。痩せすぎを避け、栄養指導を積極的に実施することが必要です。患者の摂食量を増やすには、ある程度のカロリーを含む食べやすいものを多種揃え、摂食回数を多くすると効果的です。サプリメントを使用する場合は、その影響によって摂食量が減らないようにする必要があります。
 栄養のポイントは以下の4点です。
 適正な体重を保ちましょう。
 痩せとは反対の太り過ぎのCOPDの患者さんでは睡眠時無呼吸症候群が起こりやすくなります。痩せも太り過ぎも息切れを強くします。
 肉、魚料理などタンパク質の摂取を心掛けましょう。粗食になってはいけません。
 新鮮な野菜、果物をとりましょう。
 過剰な塩分の摂取は痰を多くします。
 辛いものや酸っぱいもの、こってりしたものは逆流性食道炎が起こりやすくなり、セキや痰の原因となります。
 少量のアルコールは食欲を増すので効果的ですが、飲み過ぎは呼吸に関わる脳の働きを抑えるので危険です。
 

 

適度な運動をしましょう(図5)

 COPDが安定しているときは運動がとても大切です。その理由は、軽症のうちから四肢の筋肉に肺で見られるのと同じような炎症が起こっていると考えられていること、息切れが強くあまり動かいような生活が筋肉をさらに細くしてしまうこと、栄養状態が悪いとこれに拍車をかけること、そうでなくとも高齢者は四肢の筋力低下が起こりやすくなっていること、などがその理由です。
 運動は毎日の生活に取り入れるのが良いのですが、朝や夕方、自宅の周辺を散歩するような運動ではとても足りません。とはいえ、苦しみながらの運動は長続きするはずがなく、楽しみながら行うことが大切です。
 運動はまず安全に行われなければなりません。アメリカでジョギングの有用性を広く勧めていた人がジョギング中に死亡したということがありました。COPDでは心臓病が共存していることが多いので運動を開始する前に、安全に、しかもどこまで運動を行って良いかを決めておく必要があります。そのためには以下のチェックが必要です。
 6分間平地歩行テスト
 頑張って歩いても酸素不足にならないことを確かめておきます。
 血圧は安定しているか。
 運動すると急に高くなることがないかを知っておきます。
 運動で不整脈が起きていないか、胸が痛くなるようなことがないか。
 心臓の大動脈弁の閉じが悪くなってないか、狭くなっているようなことがないか。
 無理な運動を続けると心不全を起こすことがあります。心臓の超音波検査で確認できます。
 足がしびれたり、膝が痛むことや腰痛がないか。
 運動で良くなる場合もありますが悪化することもあります。運動を始める前に整形外科医などを受診して確認しておきましょう。
 運動は強い運動を週に1~2回行う方法と弱い運動を多くして週に4~5回行う方法に分けられます。COPDの患者さんで検討した研究では効果は両方とも同じでした。後者の方が安全で効果的です。すなわち弱めの運動とし、回数を多くすることです。
 運動はどのような運動をしたか、時間、回数などの記録をとるようにしましょう。
 安全にしかも快適に運動を続けるという意味で最重症でない限り、私はスポーツ・ジムの利用を勧めています。運動は安全な場所で楽しみながら行うことが必要です。朝早くや夜遅く、一人で散歩することはお勧めできません。
 上肢の運動トレーニングには、息切れを改善する効果があることが知られています。
 

 

薬は指示された通り正しく使いましょう(図6)

 最近、COPDの治療に使われる薬が急に増えてきています。使い方が難しくなりました。
 COPDの治療薬では吸入薬を正しく使うことが大切です。やっかいなことに吸入薬の使い方は薬によって全て異なっています。不明な点は医師、看護師、薬剤師につねに確認しておきましょう。
 最近の新しい薬は効き方ははっきりしています。薬は指示された通りに使わないと治療効果がないだけでなく不整脈等を起こす危険があります。
 

 

増悪を防ぎましょう

 COPDは経過中に急に悪くなることがあります。COPDの患者さんがどのような経過をたどるかみてみましょう。
 タバコを吸い始めて20年くらいで症状が出始めますが病院を受診するのは定年に近い年齢になってからです。20歳で吸い始めると40歳台で20年ですからもう少し早いうちに治療が行われるべきですが、残念ながら受診は20年くらい遅れています。
 診断され、禁煙を強く勧められ、吸入薬を使うようになってから怖いのは増悪という現象です。増悪とは一時的に急に症状が悪くなることです。軽いCOPDでも重い増悪となることがあります。重いときは救急車で入院、のどにチューブ入れて機械をつなぐ人工呼吸器が必要なこともあります。増悪のほとんどはカゼが原因です。患者さんは、「カゼをひきましたので」という理由で受診します。ああ、そうですか、カゼ薬を出しておきましょうと、軽く考えて治療をするとその夜、急変し救急車で搬送するような状態になることがあります。
 入院するようなことになると大変です。医療費もかかるし、死亡するようなことが起こります。
 
図3〜6:イラスト・田中直文
日本COPD対策推進会議 2014年5月発行